最高裁判所第一小法廷 昭和24年(れ)373号 判決
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人高橋義次上告趣意第一点について。
しかし、証人谷田貝三而の原審における供述予審における供述記載その他原判決挙示の証拠を綜合すれば、谷田貝三而及びその家族の現に居住する本件家屋の一部たる三疊間の床板約一尺四方竝びに押入床板及び上段各三尺四方を燒燬したる原判示事実の認定を肯認することができる。そして原判決は右のごとき現に人の居住する家屋の一部を判示程度に燒燬したと判示した以上被告人の放火が判示媒介物を離れて判示家屋の部分に燃え移り独立して燃燒する程度に達したこと明らかであるから、人の現在する建造物を燒燬した判示として欠くるところはないものといわなければならない。それ故所論は採ることができない。
同第二点について。
しかし、所論原判決の宣告期日は、その直前の公判期日との間に一五日以上の期間を存していないから、所論は既にその前提において採るを得ない。
弁護人遠藤清四郎上告趣意第一点について。
所論は、原判決の事実誤認を主張するものである。されば当法律審に対する上告適法の理由とならない。
同第二点について。
しかし、原審において被告人並びに弁護人から被告人が心神耗弱であったことは主張されていないし、また、その鑑定を申請された事実も記録上認められない。されば所論は原判示に副わない独自の事実見解であって採ることができない。
同第三点について。
所論の理由なきことは高橋弁護人の論旨第一点について説明したところにより了解すべきである。
同第四点について。
本論旨は原審の裁量に属する刑の量定を非難するものであるから、上告適法の理由ではない。
よって旧刑訴四四六條に從い主文のとおり判決する。
この判決は裁判官全員の一致した意見である。
(裁判長裁判官 齋藤悠輔 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 小谷勝重)